「もし新宿で牛丼が食べたくなったら行ってみるべき店がある」

● 今日は、朝から仕事をずーっとしていて、帰宅後は原型いじっていたので特に今日の出来事もないので、かねてから書いておこうと思っていた牛丼の話を書きますね。

● 牛丼というのは、いまひとつ正体不明の食べ物だった。子供の頃に、身の回りにあったのは親子丼とカツ丼とうな丼と、それから中華丼くらいだったし、そもそも僕の住んでいた東関東では牛肉というのは、マンガや映画で見る「ビフテキの」代名詞であり、高級品だったおかげで「おかず」の選択肢にはない食料品だった。なにしろ、実家のすき焼きは豚肉を入れるものであり、そこらへんからしても「今時の常識」とは、地域も、時代も違っていたわけである。

● ちょっとおかしな知識欲を持つ子供だった僕は、小学四年生の時に「肉料理」という名の本を買い求め、そこで、初めて「牛丼」のなんたるか?を知ったわけだ。醤油で煮付けられたであろう牛肉らしきものと、玉ねぎ、しらたき、豆腐がご飯の上に乗っている。何だか「すき焼き」みたいではあるけれど、そこは牛肉である。我が家のすき焼き(当然豚肉で作る)なんかとはランクが違うのではないか?と恐れおののいたのだ。それが、「牛丼」との出会いだった。もちろん、自分とは縁のない食べ物だと思っていたわけで、僕はといえば、その「肉料理」の最初のページにあった「スコッチエッグ」への興味でいっぱいだったため、牛丼は自分の興味から消え失せてしまったのだった。

● 牛丼への興味が再燃したのは、それから高校時代。吉野家のテレビコマーシャルを見た時だった。子供の土産に牛丼を買って帰るパパ。「やったねパパ、明日はホームランだ」と喜ぶ子供。高級な食べ物というよりは、ぐっと庶民的な印象だ。実家の近くには吉野家なんかあるわけもなく、どんなものかは依然として謎のままだった。ただ、情報によれば「牛丼」というのは決して高級な食べ物なのではなく、労働者が豪快にかっこむ系の食べ物であることがわかってきた。初めて、吉野家に足を運んだのは、その後、横浜へと移り住み、一人暮らしをするようになってからのことだった。が!その時の違和感といったら・・・。吉野家の牛丼には、子供の頃に見た「豆腐」も入っていなければ、味も薄味で、予想以上に上品な代物だった。もちろん、値段を考えれば十分にうまかったし、ボリュームもあった。かけてもかけても辛くならない、風味豊かな吉野家の七味は今でも好きだ。

● その後、吉野家を追従するように増えてきた、他チェーン店の牛丼は、味、風味こそ違えど、やはり牛肉と玉ねぎというスタイルは変わらずだった。なにしろ、お客は「吉野家」の牛丼をスタンダードと認識しているのだから仕方ない。枠からはみ出た商品は、お客の期待を裏切るだけだからだ。僕が、食べたかった、あの憧れの「牛丼」はすでに主流ではなくなっていたわけだけれど、それにごく近い形の牛丼が食べられる店はまだある。しかも、新宿駅東口から歩いておよそ5分の場所に。しかも350円で!!

● 店の名は「たつ屋」。新宿ビックロの裏手、JRAの場外馬券場へと向かうゴチャゴチャした繁華街を抜けた甲州街道沿い。とは言っても、甲州街道高架の下通りに位置するため、なんともうらぶれた通りだ。出入り口は狭く、看板も控えめなので、見落としてしまうことも多いだろう。そこは、場外馬券場に出入りするおっちゃんたちで賑わう、平成の時代にはそぐわない一軒だ。外見や環境から、慣れないお客には厳しい、殺伐とした雰囲気を想像しがちだが、決してそんなことはない。むしろ、普通の飲食店以上にフレンドリーな雰囲気のおじさんが、優しくオーダーを聞いてくれる。構えていたら確実に拍子抜けする、気安さだ。もちろん、飲食店としての衛生面も決して悪くはない。こう見えて、一応は都内に数件あったチェーン店だったのだ(今は、ここ一軒になってしまった)。一部では、カツ丼が安く食べられることで知られているが、何、カツ丼を食うなら、「かつや」でも十分安いし、むしろうまい。この店で食べるべきは、古式ゆかしい、豆腐の入った牛丼なのだ。できることなら生卵を50円で追加して、七味唐辛子を散らして食べて欲しい。大手チェーンの「万人に向けた味」とはちょっと違った、しょうゆ味強め、甘さも強めの「昭和の味」を楽しむことができる。いわば「品のない労働者の味」だ。これこそが、しかも、吉野家、松屋、すき家と比較して、確実に肉のボリュームがある。

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● どう考えても、この場所、この値段で儲けているとは考えられないし、若いバイトを雇って24時間営業しようなどという店でもない。午前中に開いて、夜 21:00には閉まる。おじさんが体調を壊せば、休業するしかないのではないか?と心配になる。いや、残酷なことを言うようだけれど、あと5年持つのか怪しいとも思っている。だから。今、新宿に行ったなら、ぜひとも一度試してみて欲しいのだ。同じ世代(昭和30〜40年代生まれ)の人間なら、わかってくれるはずだ。あの店の希少性と、昭和の牛丼の味わいを!

● もちろん、何度も行く必要はないのだ。実は、この店で食べたのはもう一ヶ月も前になるのだけれど、わざわざ「また行こう」とまでは思わない。近くにいて腹が減ってたら、寄ってみてもいいな。と、そんな感じだ。一度食べてみればいい。そのあと、吉野家や、松屋で食べる牛丼が別の意味でうまい、ということも明確になるだろう。多分、それでもいい。店を守りましょう!なんて余計なお節介を焼く気もない。でも、あの店の牛丼の味は、今のうちに試しておかないともったいないのでおすすめする、という、それだけだ。

たつ屋
住所 東京都新宿区新宿3丁目35-2
営業 月~金 10:00〜22:00、土日 7:30〜21:00、祝日 10:30〜21:00